建築設計の仕事をしていると、よく設計士さんですか、なんて聞かれたりします。
設計士という言葉は結構普通に使われているのでそういう資格があるのだろう、と思われる人もいるかもしれませんが、実は「設計士」という職種は存在しません。
存在しない、というのは語弊がありますね。設計士という国家資格も民間資格も存在しないから、特に試験や講習を受けずとも名乗ることができる、といったところでしょうか。
いろんな会社の宣伝を見ると、設計士と作る家づくり、なんて文言が当たり前のように使われていたりします。ではなぜ、設計士を名乗ったり、宣伝で設計士という単語が使われたりしているのでしょうか。
1.言葉として言いやすいから
建築士という単語は言葉として声に出すとき、ちょっと呂律が回りづらい言葉です。建築士だけならまだしも、一級建築士や二級建築士となるとさらに言いづらくなります。その点、設計士ならとても言いやすい。人にお仕事はと聞かれたときに「設計士です」と口に出しやすいですから、建築士よりは設計士のが名乗りやすいというのはあるかもしれません。
2.級がつかないから
建築士を名乗ると、では何級ですか、とお客さんに聞かれることがあるかもしれません。一級建築士であれば一級建築士ですと名乗ることができますが、二級だとちょっと気恥ずしいという人もいるでしょう。複数名の建築士が所属している会社で、Aさんは一級でBさんCさんは二級という場合、AさんBさんCさんで客の反応が変わるのを嫌がって、全員統一して設計士を名乗らせている、なんて会社もあるかもしれません。
3.誰でも名乗れるから
設計士という資格は存在しませんから、誰であっても設計士を称することができます。インテリアコーディネーターの方でも設計士を名乗ることができますし、無資格の住宅会社営業マンであっても設計士を名乗ることに何の障害もありません。「建築士とおこなう無料相談会」という広告を作った場合、相談会に参加する社員は全員建築士でなければ詐称になりますが、「設計士とおこなう無料相談会」であれば、相談するのが誰であってもウソにはなりません。
設計士と似たようなものに「建築家」というのもあります。建築家という資格があるわけではないので、これも誰でも名乗ることができたりします。坂茂というプリツカー賞を受賞したこともある有名な建築家は、一級建築士を持っていないことでも有名だったりします。とはいっても、経験が浅かったり未経験の方で建築家を名乗る勇気のある方はそうはいないでしょうけど。
建築士でないものが設計士を名乗って建築相談をすることに疑問を抱く方もいると思いますが、法的にはまったく問題ありません。
建築士法において一級建築士・二級建築士・木造建築士でなければおこなえない独占業務となっているのは、設計業務・監理業務だけですので、住宅相談会の相手は誰でも構わないのです。
ちなみに法律相談会だと、非弁行為といって弁護士法72条に抵触しますので、たとえ無料であっても弁護士以外のものがおこなった場合、宣伝目的の時点でアウトとなります。
倒産してしまったので名前を出しても大丈夫(多分)だと思うのですが、茨城県ひたちなか市にかつて存在したコンセプトハウスという会社は、「デザイナー達が創る家」と銘打っていました。デザイナーという資格があるわけではないので、これも誰でも名乗ることができる肩書きです。いろいろ考えるものですね。