未登記建物をすぐに登記した方がいい理由

水戸市 土地家屋調査士

近年、空き家のまま放置される建物が増えていることが社会問題となりつつあります。
国も空家等対策の推進に関する特別措置法を成立させるなど、空き家対策に力を入れていますが、あまり効果があがっていないのが実情です。

茨城県においては、平成25年の統計で下記のような状況です。

総住宅数は、126万8,200戸となっており、そのうち、居住世帯のある住宅は107万6,100戸(84.9%)、空き家、建築中の住宅など居住世帯のない住宅は19万2,100戸(15.1%)となっています。〈全国は6,062万8,600戸のうち居住世帯ありが5,210万2,200戸(85.9%)居住世帯なしが852万6,400戸(14.1%)〉

 

居住世帯のない住宅の内訳をみると、空き家は18万4,700戸で、前回調査の17万8,400戸に比べ、6,300戸、3.5%増加しています。〈全国は819万5,600戸、8.3%増〉

 

総住宅数に占める空き家数の割合(空き家率)は14.6%で、前回と同率となっています。〈全国は13.5%、0.4ポイントの上昇〉

 

https://www.pref.ibaraki.jp/doboku/jutaku/minkan/06kodate/akiyatoutaisaku.html

空き家のまま放置されている建物のなかには、相続登記もされていない未登記の建物がかなりの数あると想定されています。
未登記の状態で放置されている建物は、所有権が確定していないため、売ることも譲ることも、そして壊すことも出来ません。

不動産登記とは

不動産登記は,わたしたちの大切な財産である土地や建物の所在・面積のほか,所有者の住所・氏名などを公の帳簿(登記簿)に記載し,これを一般公開することにより,権利関係などの状況が誰にでもわかるようにし,取引の安全と円滑をはかる役割をはたしています。(法務省のサイトより抜粋)

権利関係の状況が誰でもわかり、その人が持っているということを国が登記簿という形で保証している、のが不動産登記の仕組みです。もし登記がなければ、誰がその不動産を所有しているのかが、あやふやなままになってしまいます。
これは俺の建物だ、と主張して、相手がそれを信じてくれるのであれば、登記関係なく不動産の売買を行うことは不可能ではありませんが、個人の主張だけで不動産の取引を成立させてくれる心の大らかな方は、ほぼいないと思われます。つまり、未登記建物を持ち続けていると、いざという時に相続したり誰かに売却したり出来ない状況に陥りかねないということです。

建物登記に必要なもの

建物を登記するためには、申請書に加えて、法務局に提出しなければいけない書類がいくつかあります。

建物登記のために必要な書類

書類 説明
代理権限証書 委任状のことです。署名・捺印を貰うことで、委任された証となります。
建物図面・各階平面図 建物の大きさと位置を示した図面です。土地家屋調査士が作成します。
住所証明書 一般的には住民票になります。現在住んでいる建物を登記する場合でも必要です。
所有権証明書 申請人が所有している建物であることを証明する書類です。複数必要になります。

これらのうち、もっとも重要なのが所有権証明書です。

所有権を証する書類は、下記のものが一般的です。

建築確認済証・検査済証
固定資産税課税証明書
工事完了引渡証明書
建築代金の領収書等

建物の登記する際に所有権を証する書類として、上記のうち二つが必要となります。
このうち、課税証明書は固定資産税を支払っているならば発行してもらえるので用意することは簡単です。しかし、それ以外の書類については、古い建物を登記しようとするとき、用意をすることが難しい場合があります。

建築確認済証は、古い建物の場合紛失していることもありますし、建築確認を取らずに建てている場合もあります。(建築基準法上、違法建築となりますが、建築基準法と不動産登記法は法律も管轄する省庁も異なるので、違法建築であろうと登記することは可能です。縦割り行政ですからね…。)領収書等なんかも、よほど物持ちのいい方でもない限り、処分してしまうと思います。

工事完了引渡証明書ですが、昔の建物の証明書を今現在になって新たにつくったものでも登記する上ではまったく問題ありません。しかし、施工業者や大工さんが今も元気に仕事をしているのならば作ることが出来るのですが、古い建物の場合ですと、会社が倒産していたり、大工さんがすでに亡くなっていることもあります。

こういった場合、隣地の方に前から建物が建っていたことを証明していただいたりするのですが、隣地の方に実印と印鑑証明書を用意していただくことになるので、手間と迷惑をかけてしまいます。出来れば申請する方の手間と代理人の手間だけで登記できる方が、スムーズに事は進められるので、所有権を証明できる書類が用意できるうちに登記の申請を行った方がいいと思います。

そして、相続が発生していた場合、所有権を証する書類に加えて、相続を証する書類が必要となります。こうなると厄介な話になってきます。

相続登記が絡む場合

Aさんが亡くなって、Aさんが建てた未登記の建物にそのままAさんの長男であるBさんが住み続けている、こういう事例は田舎では多々あります。
住み続けているだけなら特に問題も起きないのですが(この場合でも後々のことを考えれば、登記をしておいた方がいいです)、Bさんが古くなった家屋をリフォームするためにローンの借り入れをしたいと金融機関に相談へ行ったら、金融機関からBさんが住んでいる家屋を担保にしないと貸せないと言われた、となったときに問題が発生します。

担保にするということは、抵当権設定登記をかけるということです。建物が登記をされていなければ、抵当権の設定をすることができません。

相続を証する書類とは、一般的には遺産分割協議書になります。
遺産分割協議書内の文面に未登記の建物についても記述されいれば、遺産分割協議書によって建物を相続したのがBさんであることがはっきりと法務局でもわかりますから、遺産分割協議書を添付書類とすることで建物の登記をすることができます。

しかし、書かれていなかった場合、法務局側では誰が建物を相続したのかわかりませんから、この状態では建物の登記はされません。Bさんが長男で後を継いで一緒に住んでいたのだからBさんが相続しているのは当然、という理屈は法務局では通らないのです。

こうなると、未登記建物に関する遺産分割協議書を新たにつくらないといけませんから、余計な費用が発生してしまいます。

費用と手間で遺産分割協議書が作れればいいのですが、遺産分割協議書をつくってから結構な月日が経過していて、すでにBさんの兄弟であるCさんが亡くなっていた、なんてことになると、さらにややこしくなってきます。

遺産分割協議書には相続者全員の署名と実印(印鑑証明書添付)が必要ですから、この場合、Cさんの相続人全員(一般的には配偶者と子供)を遺産分割協議書に記入しなければいけません。Cさんの配偶者や子供が全員協力的ならいいのですが、海外に居住してたり、連絡が取れなかったり、非協力的だったりした場合、…非常に難航します。

相続に関しては、時と世代が増えるほど、人数も増えていきますし、血のつながりも薄くなっていきます。Cさんの相続者、さらにはDさんの相続者…となると、実印が必要な人数はどんどん増えていきます。このうち、1人でも協力してもらえなかったら、登記はアウトです。裁判をするという選択肢もありますが、建物登記のためにそこまでする方はいないでしょうし、そこまでするような家なら、最初から登記はされていることでしょう。

正直、登記には費用が掛かりますし、多少の手間も要ります。
しかし、いざ必要なときに登記が出来ないという状況に陥るよりは、今のうちに登記を済ませてしまった方がいいんじゃないかなあ、と個人的には思います。

ちなみに、法律上は建物の登記を放置していると、不動産登記法に違反していることになり、10万円以下の過料が科されます…が、現実的には不動産登記を放置したからといって、過料を取られることはありません。(過料を取られた前例はいまのところありません。あったら業界大ニュースになります。)
とはいっても、未登記は多くのリスクを抱えています。未登記の建物、相続をしていない土地をお持ちの方は、はやめに対処されるのがいいと思います。

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